コックカワサキの魂

魂は死んでないんじゃないの〜?

恋をした

恋をしました。


それは長い人生の間のたった5ヶ月にしかすぎません。


とても儚いものでした。


久々の恋だったからこそ、月並みな表現ではありますがその5ヶ月間は5年にも10年にも感じました。


出会いは夏でした。


何事もなく人生が進んでいくことに焦った私は、以前より恋愛における憧れよりも人間的な面から憧れている方にお会いしようと思いました。


正直その方は雲の上の存在で到底会えるとは思ってもいませんでしたし、同じコミュニティにいたとは言え私のことなど覚えてすらないと思っていました。


だからこそ、私の「会ってください」という言葉に気さくに「いいよ〜」と言ってくださった時は車の中だったのですが、思わず舞い上がりそうになりました。


初めて2人で会ったのは晩夏でした。今まではコミュニティの中で数回言葉を交わす程度だったのですが、その日初めて2人きりで話しました。夏の暑い日だったにも関わらず、自分の持ち合わせている中で最もおしゃれだからという理由で秋服を着て行き、後悔したのを覚えています。

 

会う前は本当に吐きそうでした。会うのも数ヶ月ぶりだったし、2人で会ったことなんてなかったから話が持たないかもしれない不安もあり正直誘わなきゃよかったなんて思ってしまっていました。


ですがそんな杞憂は会ってすぐ無くなりました。合流するなり背後から両手を振って現れたあなたのあまりの「良さ」(美しくもあり可愛らしさもある、総じて「良い」)に瞳孔がガンガンに開きました。


それくらいで恋に落ちてなるものかと強情な私は未だに憧れの気持ちが人間性的なものへの憧れなのだと言い聞かせていました。


しかし、2人で喫茶店に入り昔ながらのクリームソーダを飲みながらタバコを吸うあなたの姿に父譲りの頑固さを持った私ですがあっという間に落ちてしまいました。


ちょうどその時期伊藤沙莉が好きだったのも相まって、ハスキーで伊藤沙莉的な雰囲気を醸し出しているあなたは当時の私にとってはまさに真ん中高めのどストライクでした。


バイト代で暮らしていて決して稼ぎが多い訳でもないのに、あなたは私に喫茶店代に加え、その後のご飯代まで奢ってくれました。


別れ際にあなたはまた両手を振って改札に入っていきました、私はしばらくあなたの背中を追っていました。あなたが振り返ってまた手を振ってくれるのを期待しましたが、結局最後の最後まであなたは振り返ることはありませんでした。


次に会ったのは葉っぱの色が黄色や紅色に染まっていた時期だったと記憶しています。私はあなたに会うなりびっくりして欲しくて身内にまつわるビックニュースをあなたに言いました。あなたは駅前にも関わらず大きな声でリアクションをとり、私の肩に手を当ててきました。最初で最後のボディタッチでした。


葉っぱが色づいている公園をあなたと並んで歩きました。あなたのような方と並んで歩くことが私の夢でした。あなたの名義で取ったチケットで美術館に行きました。売店で商品を買わないにも関わらずデザインを褒めちぎったり、はたまたマーケティングが出過ぎていると毒づいたりする時間は最高でした。あなたのそういう誉める部分は誉めるけど毒づく部分は毒づく性格が私は好きでした。


美術館から出るとあなたは美術館にいた蘊蓄を自慢するおじさんと彼氏に無理矢理連れてこられた彼女に目をつけていたことを話してくれました。私も全く同じ人たちに目をつけていました、共通の話題で盛り上がった時は幸せすぎて明日死ぬものだと思ってしまいました。


終わった後はまた前と同じ喫茶店に行きました。酒にまつわる失敗談を聞かせてくれました。酒にまつわる話をした後だったので「折角なら」と一緒に居酒屋に行きました。一緒に酒を飲むことを許してくれた時は少し距離が近づいた気がしました。


居酒屋ではまたまた新人バイトのおかしな点について笑い合いました。目の付け所が同じでした。笑いどころも同じでした。それが嬉しくて私が常日頃から毛嫌いしている「〜なんよ」という語尾を東京出身のあなたが使っていることも見逃せました。


居酒屋ではお酒の力もあり話は盛り上がりました。会計ではまたまた多く払ってもらってしまいました。多く出してもらっているのに軟骨の唐揚げを残してしまったことが悔やまれます。


まあまあな量飲んでもお酒に強いあなたは少し頬を紅潮させる程度でしっかりとした足取りで帰って行きました。この時も私はしばらくあなたを追いましたがあなたはこちらを振り向くことはありませんでした。


会計を多めに出してもらっていることや、別れ際に振り向かれないことから私はこの頃から「男として見られていないのでは」なんて疑念が浮かび上がってきました。


ですが、告白は3回目のデートでと周りに言われ私はあなたを3度目のデートに誘いました。本格的に寒くなってきた時期であったと記憶しています。

 

あなたは前の用事が立て込んで待ち合わせに1時間遅刻してしまいました。なんとなく嫌な気がしていましたが、その日は居酒屋に行って話してもあまり盛り上がりませんでした。結局このままのムードで告白しても無理だと思った私は一旦その日は諦めてまた後日思いを伝えようと思いました。

 

別れ際はもう定番ですがあなたは振り向きませんでした。私は自分が不甲斐なくて生まれて初めて自分でタバコを購入しました。何かに縋っていなければ壊れてしまいそうな気分でした。


年末にかけて色々な人に相談する内に勇気が出てきた私は年明けにあなたのバイト帰りに告白しようと決意しました。


予定の15分前に着き、駅前で陰謀論者の演説を聞いて待ちました。よく考えたら直接言葉で人に告白するのは人生で初めてのことでした。


いざあなたと会うと告白する勇気も出ず、少し散歩をしようなどと意味不明なことを言って歩き始めました。


駅の周りを一周しても私は勇気が出ず、結局別れてしまいました。あまりの情けなさに友人に連絡し、近くで合流することにしました。


合流するとちょうどあなたからさっき会ったのは一体なぜなのかというLINEが届きました。


ちょうどいいタイミングだったので友人に言われ、電話で告白しました。


あなたはセールスを断るかのような声で謝りました。私はなぜかそんな謝り方でも納得してしまいました。あなたという人間がセールスを断るかのように告白を断ることにすごく合点がいってしまったのです。


これが私の5ヶ月でした。未だに少し引きずっていますが、色んな人に話す内に思い返す余裕が出てきて今後の自分のためにと文章にしました。